三重県の委託を受けて、厚生労働省補助事業「平成29年度患者のための薬局ビジョン推進事業」に取り組みました。
Ⅰ.事業実施名
地域で取り組む薬剤師在宅訪問サポート推進事業
Ⅱ.事業の背景・実施目的
在宅患者訪問薬剤管理指導,介護保険では薬剤師による(介護予防)居宅療養管理指導は,十分に普及していない。その理由として,その有用性が患者及び家族や医療及び介護の多職種にアピールできていないこと,薬局が新たに参入する際のハードルが高いことが考えられる。
一方,在宅医療では,「服薬アドヒアランス不良」,「残薬や重複投与,不適切な多剤投薬・長期投薬」など医薬品にかかわる課題が非常に多く,その解決には薬局薬剤師の在宅医療への参画が不可欠であると考えられる。
この事業は,地域包括ケアシステムに最も近い地域(市)単位で,ソフト面を重点に,日頃から培っている多機関(地方公共団体・病院・診療所・訪問看護ステーション)・多職種(医師・訪問看護師・介護支援専門員)との連携・協力のもとにあらゆる手段を講じて在宅患者訪問薬剤(居宅療養)管理指導の普及を図るものである。
なお,鈴鹿亀山薬剤師会では,保険薬局が担当する在宅患者訪問薬剤管理指導,介護保険では薬剤師による(介護予防)居宅療養管理指導をはじめとする療養の給付全般を「薬剤師在宅訪問サポート」と名付けて地域住民,多職種に普及・啓発することとしたので,以下,この名称を使用する。
Ⅲ.事業推進のための組織の設置
1.薬剤師在宅訪問サポート推進事業実行委員会の設置
(1)名 称:薬剤師在宅訪問サポート実行委員会
(2)設置目的:薬剤師在宅訪問サポート推進事業の事業計画の承認、薬剤師在宅訪問サポート推進事業の実施、その他薬剤師在宅訪問サポート推進事業に必要な事項の調整を行う。
(3)設置期間:平成29年7月5日~平成30年3月31日
2.薬剤師在宅訪問サポート推進部の設置
(1)名 称:薬剤師在宅訪問サポート推進部
(2)設置目的:鈴鹿亀山薬剤師会に,薬局における薬剤師在宅訪問サポートへの参画を支援するための実務を行う組織を設置し,運営した。
(3)設置年月日:平成29年7月5日(水)
3.薬剤師在宅訪問サポート推進委員会の設置
(1)名 称:薬剤師在宅訪問サポート推進委員会
(2)設置目的:薬局の在宅医療への参画の支援にかかる検討を行う。
(3)設置年月日:平成29年7月5日(水)
Ⅳ.在宅医療サービス支援部による薬局の在宅医療サービス推進事業
1.薬剤師在宅訪問サポート相談窓口の設置
(1)名 称:薬剤師在宅訪問サポート相談窓口
(2)設置場所:鈴鹿市安塚町638-21 鈴鹿亀山薬剤師会事務局内
(3)対象者:薬剤師,地域住民並びに医療・介護関係職種
(4)応需する相談内容
① 薬剤師在宅訪問サポート(医療保険請求事務を含む)に関すること
② 薬剤師在宅訪問サポートに応じる薬局の紹介
③ 注射薬・医療材料等の供給に関すること
④ その他薬剤師在宅訪問サポートに関すること
(5)開始日及び受付時間
平成29年7月5日(月)平日(土・日・祝日を除く) 9:00~17:00
2.医療機関と連携した薬剤師在宅訪問サポートの推進
(1)退院時共同指導の推進
鈴鹿中央総合病院医療福祉相談センター(退院調整部門)と連携して,継続的に退院時共同指導を実施する仕組みを構築した(図1参照;PDF-1P)。
(2)通院困難患者を対象とする薬剤師在宅訪問サポートの推進
鈴鹿中央総合病院薬剤部と連携して,薬剤部,福祉相談センター,緩和ケアチームに啓発資材等を配布して働きかけるとともに,通院困難患者を対象とする薬剤師在宅訪問サポート働きかけの仕組みを運用している(図2参照;PDF-2P)。
(3)勤務医及び在宅医への啓発資材を作成し,中核病院並びに鈴鹿市医師会及び亀山医師会に服薬アドヒアランス不良,残薬,多剤投薬・長期投薬などの患者に対する薬剤師在宅訪問サポートを働きかけた(図3参照;PDF-3P)。
3.在宅で無菌製剤処理を含む注射液(麻薬を含む)が使用できる体制の整備
(1)在宅で注射薬(麻薬を含む)が使用できる仕組の構築
地域内・近隣の中核病院,地域内医師会並びに訪問看護ステーション連絡 協議会鈴鹿亀山ブロックと連携して,在宅医療において,在宅療養管理指導料に関連する注射薬(無菌製剤処理を含む中心静脈栄養法用輸液,麻薬製剤等),電解質製剤及び注射用抗菌薬が必要時に効率的に使用できる仕組みを構築した(図4,図5参照;PDF-4P,5P)。
(2)注射薬(麻薬を含む)及び医療材料等の備蓄・供給体制の整備
鈴鹿市医師会と連携して,注射薬及び医療材料等の常時備蓄品目を定めた。なお,麻薬小売業者間譲渡許可を活用して,麻薬の円滑な処方せん調剤の実施に向けて,仕組みを構築した。
4.医療機関及び医師会との連携の推進
(1)薬-薬連携連絡会等の開催
地域における薬局薬剤師と病院薬剤師の連携を推進する薬-薬連携連絡会及び打ち合わせ会を開催し,中核医療機関の薬剤師と必要な情報共有を行った。
5.医師会との連携
医師会と薬剤師会の連携を推進するため,毎月開催される鈴鹿市医師会の在宅医療登録医会に参加することにより協議する場を設けた。
6.訪問看護ステーションとの連携
訪問看護ステーションと薬剤師会の連携を推進するため,毎月開催される訪問看護ステーション連絡協議会鈴鹿亀山ブロック会議に参加するとともに,訪問看護師との同行研修報告会を2回開催し,訪問看護師との連携を推進した。
7.薬剤師在宅訪問サポートの利用を推進する働きかけ
(1)医師,訪問看護師に対して
啓発資材を作成し,在宅医療のキーパーソンである医師,訪問看護師に対して,医師会及び訪問看護ステーション連絡協議会を通じて薬剤師在宅訪問サポートの必要性を啓発した。
(2)介護支援専門員に対して
介護保険のキーパーソンである介護支援専門員に対して説明会を開催するとともに、研修会において薬剤師在宅訪問サポートを啓発した。
(3)多職種に対して
薬剤師会が担当して、亀山市多職種連携会議を開催した。
8.地域住民,地方公共団体,包括支援センターに対して
推進部が地域住民への啓発資材を作成し,各薬局に配布した。各薬局では,日頃から患者に薬剤師在宅訪問サポートについてアピールした。
Ⅴ.在宅医療サービスに取り組む薬局の支援
1.薬局の薬剤師在宅訪問サポートを支援する体制の整備
(1)薬剤師在宅訪問サポートに応じる薬局名簿の作成及び関係機関への周知
72薬局が掲載された薬剤師在宅訪問サポートに応じる薬局名簿を500冊作成し,医師会等に配布
【配布先及び配布部数】
ア)鈴鹿市医師会:150冊
イ)亀山医師会:65冊
ウ)介護支援専門員:95冊
エ)訪問看護ステーション:18冊
オ)地域包括支援センター:鈴鹿市3冊×4=12冊,亀山5冊 計17冊
カ)各薬局:97薬局
キ)病院への配布:21冊(鈴鹿中央総合病院5冊,鈴鹿厚生病院2冊,鈴鹿回生病院医師3冊,三重大学6冊,三重県立総合医療センター5冊)
(2)薬剤師在宅訪問サポートに関する薬局間連携の推進
薬剤師在宅訪問サポートに応じる薬局の連携を図るため鈴鹿センター薬局を中心となる基幹薬局(「Ⅲの3の(2)注射薬及び医療材料等の備蓄・供給体制の整備」として指定した。また,薬局間連携を推進するため,無菌調剤室の共同利用による無菌製剤処理加算の届出の推進及び麻薬小売業者間譲渡許可取得を図った。
2.薬剤師在宅訪問サポートの啓発活動を実施する薬局の支援
平成29年9月に次の啓発資材を作成し,各薬局に提供した。
(1)薬局を通じた薬剤師在宅訪問サポートの啓発
① 薬剤師在宅訪問サポートに関する患者向け啓発リーフレット 23,000部
② 薬剤師在宅訪問サポートに関する患者向け啓発グッズ
ア シェリーティッシュ10枚入・・・3,000個
イ エイトバンセット・・・3,000個
(2)地域への薬剤師在宅訪問サポートの啓発
① 啓発用封筒の作成 封筒 角2 3,000枚 封筒 長3 3,000枚 計6,000枚
② 市配布物への啓発用メッセージの掲載
(3)薬剤師在宅訪問サポートを実施する薬剤師のための研修会の開催(PDF_6P資料1参照)
(4)薬剤師在宅訪問サポートを支援するツール等の提供
① 薬剤師在宅訪問サポートを支援する冊子等の提供
ア 薬局の薬剤師在宅訪問サポートに取り組むためのマニュアル
イ 注射薬処方せんの記載について(医師向け冊子)
ウ 注射薬処方せんの調剤について(薬剤師向け冊子) 各350冊作成
② 薬局の薬剤師在宅訪問サポートを啓発する医療・介護従事者向けリーフレット
ア 開業医向けリーフレット・・・500部
イ 勤務医向けリーフレット・・・1,000部
ウ 介護支援専門員向けリーフレット・・・300部
Ⅵ.進捗管理,成果の把握並びに報告書等
1.進捗管理及び事業成果を評価する組織(事業評価委員会)
(1)設立年月日:平成29年9月12日
(2)組織:県薬務感染症対策課,鈴鹿医療科学大学,鈴鹿亀山薬剤師会で組織した。
(3)業務内容:事業の進捗管理及び事業評価
2.成果の把握
(1)訪問薬剤管理指導に参画している薬局の割合
鈴鹿亀山薬剤師会が実施したアンケート調査によると,平成29年5月末の薬剤師在宅訪問サポートの実施率は48.3%(実施薬局数42薬局/回答薬局数87薬局),平成30年2月末の同実施率は56.3%(実施薬局数49薬局/回答薬局数87薬局)で,薬局数で7薬局,率で8.0%増加した。
(2)その他の指標
無菌製剤処理加算の届出薬局数は事業実施前の10薬局から17薬局(率では70%の増加),在宅患者調剤加算の届出薬局数は,事業実施前の17薬局から22薬局(率では29.4%の増加)に増加した。
Ⅶ.参考事項
1.実施成果等の情報発信について
薬剤師会のホームページに搭載するとともに,県内の他地域薬剤師会に情報発信し,広く成果を共有する。
2.事業成果の評価について
訪問薬剤管理指導に参画している薬局の割合,10%向上(アンケート調査による)を目指したが,8%に留まった。この原因として,地域における薬剤師在宅訪問サポートの推進は,薬局開設者及び同薬剤師の意識変革が最も重要な要素となるが,薬剤師会の基盤整備及び多職種への働きかけを優先したことから,地域の薬局への働きかけが若干不足していたことが推測される。ただし,数は少ないものの,明らかに意識を変えて取り組んだ薬局もあり,地域の薬局に対して数字上だけではない一定の影響を得られたものと考えている。
また,今回の事業の実施により,薬剤師在宅訪問サポート(在宅患者訪問薬剤管理指導)を推進する基盤が整備されたと考えている。地域にとって薬剤師在宅訪問サポートの推進は継続的に対応していくべき課題であるため,引き続き,地域のため,患者のために地域薬剤師会を挙げて推進に取り組んでいく。